教育のためのコミュニケーション

「常陸大宮高校 高校生株式会社の7年間」“実践「的」ではなく実践”
2023.03.18 トークセッション Report by 山崎一希




 2023年3月18日、「常陸大宮高校 高校生株式会社の7年間」と題して、茨城県立常陸大宮高等学校商業科の教員(当時)の横山治輝さんをゲストに迎えたトークセッションを開催しました。
 今回のイベントは、常陸大宮駅前のコミュニティカフェ バンホフさんの協力で会場を無料で利用させていただくとともに、常陸大宮情報メディア研究会・ひたちおおみや放送局「keydecke」のみなさんにオンライン配信までしていただきました。私(山崎)自身、常陸大宮市出身ということもありますが、この地域で市民活動を展開する上での高いポテンシャルを実感しました。

 さて、 常陸大宮高等学校商業科では、高校生が社長・役員として運営する株式会社を設立しており、地域振興に関わる事業を手がけるとともに、最近は実際に株式を購入しての資産運用も行っています。その実践をけん引してこられたのが、証券会社勤務を経て公立高校教員になった横山治輝さんです。この取り組みは、これまで金融教育や起業家教育という文脈では注目されてきましたが、今回のイベントでは人口減少という課題に向き合う地方の公立高等学校における教育実践としての価値にも焦点を当てて話を伺ってまいりました。

 株式会社の運営をベースとした商業教育を展開してきた横山さんは、「実践『的』ではなく、実践であるべき」と強調します。
 私自身は、大学時代の教職課程において、生の社会課題を生のまま学校現場に持ち込む際の配慮=「教材化」ということへの教師の専門性について、いつも意識させられていました。それは今でも大事なことだと思っています。
 しかし、横山さんの話を聞いていて思ったのは、リアルな課題に対する「教材化」ということと、「実践『的』ではなく実践」であるということと、矛盾しないのではないかということです。
 たとえば株式会社の中のツアー部門では、生徒たちがコンダクターを務める日立市・鵜の岬のツアーが人気商品になっているという話でした。そこで印象的だったのは、旅行業者ではない彼らが旅行を手がける際に生じる法的障壁をクリアすることも、コーディネーターとしての学校や教師の役割にせず、生徒自身が取り組む教育実践として捉えられているという話でした。こうしたことは、実践を実践「的」にせずに「教材化」を図っているものとして捉えられるように思います。

 それから、これは公立学校におけるユニークな実践の継続を巡って常に起こる議論ですが、横山さんが常陸大宮高等学校からいなくなったらどうなってしまうのかという問題です。実はこの4月から、横山さんは実際に別の学校へ異動になりました。
 この点については、トークを通じて、学校に対する半・外部的な株式会社の存在が、属人性を超えた学校自体の文化やカリキュラムの継続を担保し得る、ということに私自身が気付くことができました。たとえば横山さんは、別の学校へ異動となったとしても株式会社の顧問を続けることは可能ではないかと語っていましたし、そもそも地域の人たちも運営を担っているため、要は学校外の地域の文脈に学校のカリキュラムが埋め込まれた形になっているわけです。こうした、学校の半・外部的な組織によって学校文化の継承を担保していくというアプローチは、株式会社でなくて、NPO法人や一般社団法人などの組織形態でも試みることができるでしょう(コミュニティスクールはまさにそういう発想の上に成り立っていたはずですが、それがうまくいっていないところも少なくないようです)。

 当日のトークの様子は、「keydecke」でアーカイブ配信されています。当日会場へ来られなかったという方もぜひご覧ください!

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担当:山崎